張替前の襖・障子にやってはいけないこと
- 大池建具店

- 2020年9月22日
- 読了時間: 4分
お盆前、お正月前など季節の節目には襖と障子の張り替えのご依頼が多くなります。またアパートなど賃貸物件であれば退去後のクリーニングと同時に張り替えをします。これはやはり年度末が多い印象です。加えて昨今のコロナ禍でお家にいる時間が増えたり、ご自宅でリモート勤務される方が増えたりで張り替えの需要が伸びています。
今回は綺麗に張り替えをして長く使ってもらうために、張り替え前の襖・障子にやってはいけないこと、やらないほうがよいことを施工者の視点で書いていこうと思います。
※わが県は「板襖」の文化圏です。この記事も板襖の例を中心にお送りします。
✖接着剤、テープやシールで補修する
こちらの画像は破れた部分を接着剤で補修された襖紙です。このような破れ方は紫外線などの経年劣化で紙の繊維が弱くなったときによく見られます。

ご覧のように亀裂部を接着剤でくっつけても、紙全体に力が無くなっているので破れがどんどん広がっていきます。よく見ると接着剤を付けた部分だけが変色していますね。紙や下地木部に接着剤がしみ込んでいます。新しい紙に貼りかえるので紙部のシミは何とかなります。問題は下地木部にまで接着剤がついている場合。ザラザラデコボコしていると新しい紙を貼った時に表面に凹凸が現れるので丁寧に取り除きます。時には下地の板を薄く剥いで平らに埋めなおすこともあります。最悪の場合、下地ごと新調交換しないといけません。
又、框(まわりの木部)にガムテープなど強力な糊が残っているとお掃除にお時間いただくことがあります。框に施された塗料の種類によっては化学反応でいつまでもベトベトすることもあるのでお気を付けください。
✖破れた紙を全て剥がしてしまう
どうせ張り替えるのだからこちらで先に剥がしておこうという方がいらっしゃいます。お気持ちは大変うれしいのですが、これもやらない方が良いことになります。
①無理に剥がすと建具全体を痛めることがある
②今までどんな紙が貼ってあったのか判別できなくなる
①は文字通りそのままの意で、紙の剥がし方にも少々コツがありまして無理に剥がすと木部に影響がでる可能性があります。例えば障子なら水で濡らして糊を柔らかくしてから剥がします。乾いたまま剥がして組子を折ってしまったという例も何回か見ています。
②は新しい紙を選定するときの判断材料を残しておいてほしいという意味合いが強いです。現状はこのグレードの紙が貼ってあるのでこちらのカタログはいかがですか?紗織(糸入りの襖紙)が貼ってあるので次は鳥の子(糸の入っていない襖紙)で雰囲気を変えてみますか?……なんてお話の進め方をするときに大変参考になります。
✖動きが悪い部分に金属用潤滑剤をスプレーする
やりがちですが絶対にやめてください。特に多いのが金属用の潤滑スプレーを引戸に吹いてしまい、ほこりや砂を巻き込んでかえって動きを悪くしたり戸車や敷居を傷めるパターン。とある有名な潤滑スプレーのHPを見てみても木製建具への使用例は載っていません。開き扉の金属製丁番へは効果がありますが、引戸、特に木製建具の潤滑には使わないでください。
当店をご利用頂いたことのあるお客様はアレ?と思ったかもしれません。はい、当店も潤滑スプレーを使うことがあります。これは木工品や建具の使用に特化した粘度の低いサラッとした潤滑剤です。もしご入用でしたらこちらのスプレーのみでもご用意できますのでお気軽にどうぞ。
✖建具を外してしまう
張り替える建具をお預かりに伺ったところ、既に外して待っていてくれる方もいらっしゃいます。これも大変うれしいのですが建具屋の場合はその場その場に組付けられた状態での建付(隙間はないか)をチェックしたり、動きは重くないか、取外しは容易かを確認しながらお預かりしていきます。先に外してしまうとそのチェックが納品時になるためその場で対応出来なかったり、追加の費用や時間をいただくことにもなりかねません。後から追加が発生するのは施工者である我々も心苦しいので、建具は組付けられたそのままの状態にしておいてくださって結構です。
普段の作業中に気付いたことを書き連ねてみました。先にも書いた通り施工者の目線ですので禁止事項というよりは、しない方が良いですよ~というお願いとお考え下さい。
襖・障子の紙が破れた程度ではケガをすることはないのでそのまま使用を続けてしまうことが多いかと思います。しかし長い目で見たときに傷みや異常に気付いたときに早めにプロにご相談いただくのが一番安上がりで解決も早いのかな?と経験則で感じています。当店でなくとも結構です。ご自宅お近くの建具屋さん、表具さんにまずはご相談ください。




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